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ふつうにおいしい

お客様がさがしているのはどんなチョコレートなのか?

決して安くはないチョコレートなので、気に入っていただけるであろう1枚に絞るのに、今まで食べた中でどんなチョコレートが好きでしたか、と訊くことが多い。

 カカオ成分が高いもの?

フレーバーがあるもの/ドライフルーツやハーブ、黒コショウ、パン粉、塩が入っているものはどう?

ミルクチョコレートのほうがいい?

お砂糖の種類にもこだわる?

 

ここで岐路に立つ。

カカオ成分が高めで、カカオの風味がダイレクトに味わえるものがいい、

と答える方と

甘いチョコレートが好きなので、ミルクチョコレートがいい、

と答える方とでは、

進む方角がまったく違ってくる。

 

甘いチョコレート=おいしいチョコレート

とは限らないが、さぐりながら話を進めていく中で、こういう表現を聞く(そして私もときどき口にしてしまう)。

 

「ふつうにおいしいチョコレート」がいい。

 

おそらく、一部の人だけが好む類ではなく、大多数の人に好まれるようなチョコレート、という意味で使っているのだと思う。

あれ、でもおかしいぞ。

「おいしい」はそれだけでプラスの評価のはずだ。

一方で、「ふつう」とは、

特に変わった点はなく、特別でなく、ありふれている、という意味を持つ。

 

通じているけど、「ふつうにおいしい」ってどういう共通認識なんだろうと疑問に思ってきたが、「ふつうに」は新しい用例として認められつつあるらしいのだ。

それが、

ありのままであるようす、正直なところ、という意味らしい。

 

いまや、「ふつうにおいしい」は、

思ったよりもおいしいし、平均点はかなり上回っている、くらいのニュアンスなのか。

まさに、「舟を編む」の用例採集ではないか。

乱れているのではなく、変わっていく言葉。

言葉でチョコレートの味をどうあらわすか、というのも私の大きなテーマのひとつ。

 

セミナーでの試食会にて。

しかし最後は、「私を信じて!」と言いたくなってしまう。

You have to believe me!